| 『機械が僕に』 | 東西著/日中学院別科翻訳班訳 |
| アーチンが | ▼岡安ゆかり訳 |
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十年後の夏、僕はクレーンの腕に立っている女の子を見ていた。クレーンは十階建てビル程の高さで、その腕の長さはクレーンの高さと同じくらいだった。腕の一方には大きなプレハブボードが何枚かはさまれ、もう一方にはフックが下がっていた。フックには何も下がっておらず、ただフック自体の重さでワイヤーロープが真っ直ぐに張っていた。ワイヤーロープは細く、フックはいやに頑丈そうで、下にいるとその重くて丈夫なフックが今にも落ちて来そうに見えた。女の子はフックのある側、正確に言うと、フックが下がっている側の腕の真ん中に立っていた。彼女は両手を広げバランスをとりながらフックのある方、つまり腕の先端に向かってゆっくりと歩いていた。 |
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| ▼吉村誠訳 | |
この時、僕のそばの太った男がまた叫びだした。バカヤロー、不良娘、恥知らず。飛べるモンなら飛んでみろ。そうなりゃ俺も仕事にいけるってもんだ。おまえに付き合うほど暇じゃないんだぞ。俺が仕事に行くかないと数十万の損失だ。バイバイ。太った男がそう言い終わるや、大空に怒鳴り声が響きわたった。バカヤロー。僕はクレーン車の上にいる女の子が拡声器を口に当てているのに気がついた。彼女は下にいる大群衆にむかって大演説をぶつつもりのようだ。 |
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| アーチンに | ▼本多恵美子訳 |
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十年後のその夏、僕は大学のジャーナリズム学系を卒業した。そのころアーチンは僕から一〇万八千キロの彼方いた。宇宙人みたいなものだ。卒業証書を受け取ると、すぐに荷づくりにとりかかり、ベッドの周りにちらかった原稿を整理し始めた。自分が暮らす街に自殺未遂で有名なスターがいて、僕を待っているなど知るよしもなかった。情熱にかられて書きなぐった原稿も、今となっては一文の価値もない。トイレに持っていって焼き、まだ使えそうな資料や原稿をトランクにつめた。一枚一枚整理し、一字一句に至るまで丁寧にチェックし、整理しながら列車の切符のことを気にしていた。切符のことを気にすると、尿意をもよおし、何度もトイレに通うはめになる。あるときはドアをしめ、あるときは開けっ放しでやった。口を開けたトランクは、残すことにした原稿であっという間にいっぱいになり、服を入れるスペースも占領されてしまった。 |
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| ▼徳久圭訳 | |
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二日後、廖局長に会うためもう一度天馬テレビ局に行った。すると二人の守衛がパッと腕を広げ、行く手を遮った。僕は言った。僕は廖局長の親戚の者だ。遊びに来いとも言われている。大事な要件を彼に伝えなくちゃならない。困ったことになっても、君たちでは責任を負いきれないぞ。守衛は何も言わず、腕も下ろさない。僕はあり金をぜんぶかき集め、小銭までそっくり彼らのポケットにねじ込んだ。守衛は言う。あなたを入れたくないわけじゃない、廖局長が入れさせないのだ。僕は聞いた。廖局長は戻ったのか。守衛がうなずく。僕は突然怒りが込み上げてきた。なにが局長様だ、ふざけるな。人を五日も待たせておいて、会おうともしない。僕はテレビ局の建物に向かって怒りをぶつけた。テレビカメラを担いだ若い男が三人、僕の怒鳴り声を聞いてビルから飛び出してきた。彼らは三方から僕を撮り始めた。それで僕も勢いづいた。局長はごろつきだ、チンピラだ、官僚だ、腐敗分子だ、極悪非道だ、無分別の大馬鹿野郎だ。偉そうに局でそっくりかえっているが、家に帰ればタダの人、自腹は切らない、女房はほったらかし、つけ届けは取り放題、忙しい忙しいと言いながら女の子といちゃいちゃする時間はあるくせに。 |
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| 機械が僕に | |
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テレビ局に戻り、たった今撮影したアーチンの跳び降り未遂ビデオを再生してみた。すると、映像があるのに音声のない部分がたくさんある。僕はあの混乱した現場をひとつひとつ思い出してみた。アーチンの声はまだ耳に残っている。その息づかいさえ、つい今しがたのことのように新鮮だ。僕は彼女を訪ね、追加取材することにした。 【著者紹介】 本HPにおける原文掲載および訳文掲載についてはすでに著者および訳者の許諾を受けています。原文・訳文の無断転載はご遠慮ください。ご必要なことがありましたら、日中学院メールアドレスからお尋ねくださいませ。また原文・訳文に関するご感想・ご質問がありましたら、ぜひメールを送ってくださいませ。 |
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